不動産取引に欠かせない書類のひとつが「売買契約書」です。取引内容を明記した重要な書類ですが、確認しなければいけない項目が多く、また用語も専門的です。
不動産の売買契約書は理解しにくい書類ではありますが、取引の約束事を決め、把握するためにはしっかりと内容を理解する必要があります。
本記事では、売買契約書の重要項目と契約書を取り交わした後の取引の流れ、「住宅ローン特約」についてわかりやすく解説します。後悔のない取引のためにも、しっかりと予習しておきましょう。
- 売買契約書で確認すべき重要ポイント
- 売買契約締結後の流れ
- 住宅ローン特約
不動産業界の活性化・透明化を目指し、2018年仲介手数料定額制の不動産会社「イエツグ」を設立。お客様の「心底信頼し合えるパートナー」になることを目標に、良質なサービスと情報を提供している。
保有資格:宅地建物取引士・2級ファイナンシャルプランナー技能士・住宅ローンアドバイザー・既存住宅アドバイザー・防災士
どんな役割を持ってる書類なのかな?
目次
不動産売買契約書とは売主・買主の「約束事」
不動産売買契約は、売買契約書を通じて結ばれます。
- どんな物件を
- いつ
- 誰から
- 誰に
- どんな条件で
- いくらで売る
売買契約書は、上記のように取引内容そのものが記載されている書類です。言い換えれば、不動産売買における売主と買主の約束事を記しています。
不動産は売買契約の締結後、すぐに物件が引き渡されるケースは多くありません。まだ売主が住んでいる物件、売主の責任で修繕が必要な物件など、買主が住むまでに時間を必要とするケースが多いためです。
金銭の授受と商品の引渡しが同時に行われる商品なら、口頭での約束だけで契約を成立させられます。しかし、不動産は高額取引になりやすい上、契約から引渡しまでの間に時間が必要です。そのため細かい約束事を契約書という形で残しておくことで、売主・買主ともに安心して取引を進められるようになります。
どんな約束をするのかポイントをチェックしてみよう。
不動産の売買契約書を読み解く上で注意すべきポイント
契約書によって契約内容が明確に記される不動産売買は、契約書の内容に不備があっても契約内容を変更するのは非常に困難です。仮に内容変更ができたとしても、その手続きには非常に長い時間と手間がかかり、余計な出費が伴う場合もあります。
契約書に押印する前には、取引内容が正当なものであるか、以下のようなポイントをしっかり確認しておきましょう。
売買の目的物
取引の対象になる目的物が明確であるかを確認します。
登記簿に基づき、所在地・地番・地積などに誤りがないかを確かめましょう。
付帯設備・備品の確認
買主へ引き継ぐ設備・備品は、契約書に記載すべき事項です。
物件に付帯している設備・備品などは別途「設備表」などに記載し、引渡し対象であることを明確にしておきましょう。
なお、契約時に故障なしと判断されていても、契約書に記載された設備・備品に不備が見つかる場合があります。欠陥・不備が契約内容と適合していない場合には、売主は「契約不適合責任」を負います。
そのため、売主・買主は契約不適合責任の有無や条件、事実と契約書の相違がないかを十分に確認することが大切です。契約不適合責任については、後述でも詳しく解説しております。
対象面積の測り方と代金清算
登記簿に記載された土地面積(公募面積)と、実際に測量した面積(実測面積)は必ず一致するとは限りません。
契約の際には、売主と買主の間で
- 公募面積と実測面積のどちらを基準とするか
- 売買契約締結後に再測量し、発生した差額を別途精算するか
などの条件合意が必須。その上で対象物件の面積の測量方法、代金の清算方法を契約書に明記しておく必要があります。
売買代金・支払時期・方法など
物件の売買代金、代金の支払時期、代金の支払方法は、契約書に明記する必須事項です。
物件によってそれぞれの条件は大きく異なるため、ひとつひとつ納得できる内容であることを売主・買主ともに確認しておきましょう。
手付金
買主から売主へ支払われる手付金に関する取り決めも、売買契約書に明記される内容です。
手付金の相場は売買代金の5~20%程度。契約締結後に売買代金へ充当されるのが一般的ですが、事前の取り決めによっては異なる条件となる場合もあるため、内容はしっかり確認しておきましょう。
手付解除
何らかの理由で契約を解除する場合に、支払い済みの手付金の扱いに備えた項目です。
一般的には、売主側の責による解除なら手付金の2倍を買主へ返還、買主の責による解除なら手付金の放棄が解約要件として定められます。また解約期間は、売主による所有権移転登記の申請、買主による中間金の支払いといった「契約の履行」に着手するまでとされています。
所有権移転・引渡し
物件の所有権移転と引渡し時期を明確にする項目です。一般的には、所有権の移転と物件引渡しは残金決済時に行われます。
ただし住宅買い換えなどの理由で、残金決済時に同時引渡しできない場合、特約として1~2週間程度の「引渡し猶予」を設定する場合があります。契約書上にもしっかりと記載すべき事項ですので、忘れずに確認しておきましょう。
抵当権の抹消など
住宅ローンが残っている物件には、原則として「抵当権」が設定されています。
不動産取引では、買主から購入代金を受け取ったと同時に売主が住宅ローンを返済するケースが少なくありません。買主からすれば、一時的とはいえ抵当権が残った物件を購入しなければならないため、契約書上で抵当権の抹消義務を明記しておく必要があります。
買主側がリスクを負う売買条件となるため、とくに買主は忘れずに確認しておきましょう。
危険負担
売買契約締結から引渡しまでの間に、天災や事故などで物件が損傷してしまった場合、どちらが責任を負うかも契約書上で定めておく必要があります。
一般的には、引渡し前に売主が物件修復を負担。さらに修復の費用が高額になりすぎる、状態がひどく修復できない場合などは、売主・買主ともに無条件で解約できるように定められます。
契約不適合責任
売買取引が成立した物件において、契約内容と不適合の箇所が見つかった場合、売主には修復や損害を賠償する責任が生じます。
この責任はこれまで「瑕疵担保責任」と呼ばれてきましたが、2020年4月1日の民法改正により新たに「契約不適合責任」と改正。従来よりも買主側からの請求権が増えました。
これまでは通常の確認では見つけられない「隠れた問題(瑕疵)」があった場合に、買主は売主へ損害賠償請求や契約解除を求められました。しかし改正後は、「契約の内容に適合しない」状態に対し、物件・備品・設備の補修や代替物を請求できるように変更。売主が問題を把握しているかどうかに関わらず、買主は対応を求められるようになっています。
そのため売主は、把握している問題を契約書上に明記し、買主の合意を得る必要性が高まりました。ただし、契約不適合責任は「任意規定」といって、売主・買主でその他の合意事項があればその事項が優先されます。たとえば、契約書に「売主の契約不適合責任免責」との記載があれば、売却後に発覚した物件の不備や設備の故障に対し、売主は責任を負いません。
でも不動産売買はここで終わりじゃないんだ。
売買契約後の流れ【本審査→ローン契約→引渡し→確定申告】
不動産売買は売買契約書に合意しても、そこで取引が全て終わるわけではありません。
買主が実際に購入代金を振り込み、物件の引渡しが終わってようやく一区切り。その後には税金に関する手続きも待っています。
住宅ローンの本審査
買主の多くは、不動産を購入する際に住宅ローンを利用します。住宅ローンは、非常に高額な不動産購入代金を数十年と長い期間をかけて返済する長期ローン。それだけに、貸す側である金融機関も慎重になり、しっかり返済できる人物であるか審査を行います。
住宅ローンの審査には、申込者である買主の情報を示す以下の書類などが必要です。
- 住民票(家族全員が記載)
- 印鑑証明書
- 実印
- 本人確認ができる書類
- 収入を証明できる資料
- 購入する予定の物件の資料
- 現在の資産を確認できる書類(預金口座通帳など)
ローン契約
無事に本審査に通過すれば、正式にローンの契約を行います。
契約の正式名称は「金銭消費賃借兼当抵当権設定契約」といい、物件の購入代金を借りるだけでなく、物件を担保とするための抵当権の設定も同時に行われます。
物件引渡し
ローン契約を結んだ金融機関から借りたお金が支払われ、購入物件の残代金の支払いが済めばいよいよ物件の引渡しです。
借りたお金が支払われることを「ローン実行」といい、残代金支払いの直前に行われます。ローン実行は買主の口座に対して行われますが、購入する物件を扱う仲介不動産会社の口座へ直接振り込んでもらうことも可能です。
一般的には残代金の支払いと引渡しは同時に行われますが、引渡し猶予の契約を結んでいる場合には、後日引渡しされます。引渡しタイミングは、事前に契約書上で確認しておきましょう。
確定申告
無事に引渡しが終わっても、この取引に関する手続きはまだ終わっていません。住宅ローンの残高に対して所属税の控除を受けられる「住宅ローン控除」を適用させるため、不動産を購入した翌年には確定申告を行いましょう。
買主が会社勤めをしているなら、会社の年末調整で対応してもらえます。ただし入居年度分だけは買主自身による確定申告が必要です。
もしローンを組めなかったら、買主はどうなっちゃうの?
不動産の売買契約における「住宅ローン特約」とは買主保護の特約
物件購入の際、買主の多くは住宅ローン契約を結びます。しかし、契約後になんらかの理由でローンを組めず、物件を購入できない場合もあります。
そんなときに買主を助けてくれるのが、契約を無条件解約してくれる「住宅ローン特約」です。
住宅ローンが組めない場合に契約を無条件解約
「本審査に通過しなかった」などの理由で住宅ローンを組めなかった場合、買主側から売買契約を無条件で解除できる特約が「住宅ローン特約」です。
不動産は非常に高額な売買になりやすい商品であり、住宅ローンなしでは物件を購入できない買主が多数です。住宅ローン特約を結んでいない場合、住宅ローンを組めず資金の用意ができなくても、売買契約を解除できないという状態に陥るリスクがあります。
こうなると買主は大きな負債を抱える上、法的な罰則を受ける恐れがあります。また売主も代金が支払われないにもかかわらず、契約を解除できないために物件を手放さなければならないことも。このような双方のリスクを無くすためにも、住宅ローン特約は必要です。
住宅ローンは、仲介する不動産会社があっせんする提携ローンを利用するケースがあります。このようなあっせんされたローンを利用する場合には「金銭貸借のあっせん」という条項で、ローン特約の内容を定めるよう、宅地建物取引業法で定められています。
一方で買主が自分で選んだ住宅ローンを利用する場合には、不動産会社に住宅ローン特約設定の義務はありません。そのため買主は自分から住宅ローン特約の設定を希望する必要があります。
ローンの申し込み先を契約書に記載
住宅ローン特約の設定には、融資申し込み先および承認取得期日の記載が必須です。
住宅ローンを扱う金融機関は非常に多く、一度断わられても他の金融機関の審査を受けられます。そのため契約書上に融資申し込み先を指定するよう記載しておかないと、融資を受けられるまで延々と金融機関の審査を受け続けるはめになりかねません。
また同時に、融資の承認を取得する期日の指定が必要です。
期日を定めていない場合、審査不通過を理由にした契約解除ができません。審査を延々と受け続けることを避けるためにも、必ず期日の指定も行っておきましょう。
手付金を全額返還できる
住宅ローン特約には、多くの場合「手付金の返還」もセットで定められます。買主が売主へ事前に手付金を交付している場合、ローン審査不通過を理由とした契約解除時に手付金の返還を受けられます。
この条項を定めておかないと、売主の責による契約解除ではないと主張されてしまい、大きなもめ事になりかねません。
住宅ローン特約は特殊な契約解除条項です。双方の権利を守るためにも、しっかり漏れがないように条項を明記しておきましょう。
住宅ローン特約が無効になるケース
買主の権利と財産を守る住宅ローン特約が付帯していれば、ローンの審査不通過なら必ず契約を白紙に戻せるとは限りません。
住宅ローン締結において、
- 買主が必要以上の高額ローンを組もうとした
- 手続き積極的に進めなかった
など、誠実な融資手続きを進めていないと判断された場合には、住宅ローン特約を理由とした契約解除を認められない恐れがあります。
住宅ローン特約は買主に手厚く、売主には比較的不利といえる条項です。万が一のときにはもめ事なく契約を解除できるよう、買主は誠実にローン締結の手続きを進める義務があると理解しておきましょう。
まとめ:不動産売買契約書・住宅ローン特約でご不明な点はイエツグまでご相談ください
売買契約書は、高額な不動産取引を安心して進めるために必要不可欠な存在です。あとあと大きなもめ事にならないよう、売主・買主が双方誠実に向き合い、お互いが納得できる内容の契約書を作り上げなければなりません。
弊社イエツグは、不動産売買の仲介を専門とする不動産会社です。これまでも多くの不動産売買取引を手がけた経験から、お客様がお悩みの契約書作りをスムーズに行えるお手伝いをいたします。
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