日本経済新聞は、2020年10月12日に、残価設定型の住宅ローンを政府と民間の金融機関が開発しようとしていると報じました。
残価設定ローンは、自動車の購入時に利用されることの多いローンです。借り入れることで毎月の返済負担を抑えられるため、残価設定ローンで住宅の購入が可能になると、経済的な理由で諦めていた方も、夢のマイホームを手に入れられるかもしれません。
本記事では、残価設定ローンの特徴やメリット・デメリットだけでなく、普及に向けて動き出した理由など、幅広く解説していきます。
- 残価設定ローンの仕組みやメリット・デメリット
- 残価設定型住宅ローンがこれまで普及しなかった理由
- 残価設定型住宅ローンが普及した場合の懸念点
【動画目次】
00:00 はじめに
01:23 ①残価設定ローンの仕組みやメリット・デメリット
04:41②残価設定型住宅ローンがこれまで普及しなかった理由
07:39③残価設定型住宅ローンが普及した場合の懸念点
08:54 まとめ
不動産業界の活性化・透明化を目指し、2018年仲介手数料定額制の不動産会社「イエツグ」を設立。お客様の「心底信頼し合えるパートナー」になることを目標に、良質なサービスと情報を提供している。
保有資格:宅地建物取引士・2級ファイナンシャルプランナー技能士・住宅ローンアドバイザー・既存住宅アドバイザー・防災士
目次
家も買える?残価設定ローンの特徴とメリット・デメリット
残価設定ローンとは、本体価格と将来価値の差額を返済するローンです。自動車購入時の残価設定ローンでは、契約から3〜5年経過した後の最終返済額を決めて、そこから本体価格を差し引いた金額を分割で返済していきます。
たとえば、300万円の車を5年ローン(60回払い)で購入する場合、60回目の返済額を120万円に設定し、残りの180万円を59回に分けて返済していきます。
返済が最終回を迎えたときの選択肢は、以下の3点です。
- 車を売却して残債を一括で返済する
- 残価を一括で支払って車を買い取る
- ローンを再設定して所有権が得られるまで返済を続ける
※ローンの再設定ができない場合もあります
残価設定ローンのメリット
残価設定ローンのメリットは、以下の2点です。
- 毎月の借入額を抑えられる
- 残価が保証されている
もし残価設定型の住宅ローンが普及すれば「子どもがまだ小さい」「養っている家族の人数が多い」など、生活費や教育費がかかる世帯でも、住宅を取得しやすくなるでしょう。
また残価設定ローンは、返済が最終回を迎えたときに、購入した自動車の価値が下がっていても契約時に決めた残価で買い取ってくれます。
残価設定型の住宅ローンでマイホームの残価が保証されていると、売却価格が残債を下回って売却しにくくなる心配がありません。子育てや転職、退職、老後といったライフステージに応じて、住宅を住み替えやすくなるでしょう。
残価設定ローンのデメリット
一方で残価設定ローンには、以下のようなデメリットがあります。
- 利息負担が高額になる場合がある
- 残価が保証されない場合がある
また自動車の残価設定ローンは、最終回の一括返済元本のローン返済に適用される金利が高くなる場合があります。もし残価設定型住宅ローンを借り入れる場合は、返済を延長したときの返済負担も入念に確認する必要があるでしょう。
加えて一般的に残価設定ローンで保証されるのは、最終回の返済時に売却したときの金額のみです。返済の途中で売却する場合は、残価として保証される金額よりも売却価格が低くなる可能性があります。
もし残価設定ローンの返済途中で、自動車が事故で損害を負った場合は、残価から損害額が差し引かれるのが一般的です。よって残価設定型の住宅ローンも、建物の傷み具合や損害状況によって残価が減額される仕様となる可能性があります。
日本の住宅市場で残価設定ローンが普及しなかった理由
残価設定型の住宅ローンは、通常の住宅ローンと比較して毎月の返済負担を抑えられるにもかかわらず、なぜ普及しなかったのでしょうか?もっとも大きな理由は、住宅の残価が設定しにくかったためです。
自動車の残価設定ローンは、返済期間が3〜5年と短期間であるため、金融機関は車の将来価値を予測しやすく現実的な残価を設定できます。
一方で住宅ローンの返済期間は最長35年と、自動車と比較して長期間です。加えて日本の住宅市場は、中古住宅よりも新築住宅の方がはるかに人気であったため、築20〜25年が経過すると建物部分の資産価値が0円となるといわれてきました。
もし住宅の価値予測を誤り、残価よりも価値が低くなった場合、損をするのはローンを貸出した金融機関です。これまでの日本は、金融機関が住宅の将来価値を予測しにくく残価設定が困難であったため、残価設定型住宅ローンは積極的に取り扱われませんでした。
住宅市場の変化によって残価設定型住宅ローンの普及が現実的に
残価設定型住宅ローンの開発が検討され始めたのは、日本の住宅市場が変化し、残価が設定しやすい環境となりつつあるためでしょう。
新築住宅が人気なのは、日本の住宅市場が建物の建築と取り壊しを短期間で繰り返すスクラップ&ビルド型であったことが大きな理由です。
しかし、少子高齢化社会の伸展がほぼ確実である日本において、スクラップ&ビルド型の住宅市場を続けると、住宅の供給が過多の状態となります。
そこで近年はスクラップ&ビルド型から、良質な住宅ストックを活用できる社会に移行するために、質の高い住宅である「長期優良住宅」の普及が始まりました。
長期優良住宅は、定期的にメンテナンスをすると長年にわたって快適に暮らせる住宅です。よって、長期優良住宅の戸数が増えると、新築住宅ではなく質の高い中古住宅を選ぶ人も増えるでしょう。
その結果、中古住宅の需要が増加して価値が測りやすくなり、残価の設定が容易になりつつあります。新型コロナウイルスで冷え込んだ需要を回復させるためにも、より多くの方が住宅を購入しやすくなる残価設定型住宅ローンの開発が進みだしたと考えられます。
残価設定型住宅ローンの普及が進んだ場合の懸念点
残価設定型住宅ローンを借り入れて購入した住宅は、最終回の返済時まで価値を保っておかなければなりません。そのため残価設定型住宅ローンは、定期的な点検や必要に応じた修繕が義務化されている長期優良住宅のみが借り入れの対象となる可能性があります。
需要の見込めない地域に建った住宅は、将来の価値が大きく下落するリスクが高いため、そもそも残価設定型住宅ローンを利用できないかもしれません。
また、最終回の返済で住宅を売却する場合、住み替えの資金が必要となるため、貯蓄をしておく必要があるでしょう。
残価設定ローンで自動車を購入した場合、最終的に車を手放しても、カーシェアやレンタカー、タクシーなどの利用で生活できる可能性があります。
しかし残価設定ローンを借り入れて最終的に住宅を手放す場合は、必ず新たな住まいを探さなければなりません。新たに購入する住宅の頭金や諸費用、賃貸物件の初期費用などの支払いに充てるための資金を、計画的に準備する必要があります。
まとめ:残価設定型住宅ローンで家が買える時代が近づいている
残価設定ローンが普及すると、より多くの方が住宅を購入できる可能性があります。残価や融資額の設定方法は、2021年以降に民間金融機関が行うモデル事業を通じて決められるため、イエツグでは新しい情報が入り次第、随時お伝えする予定です。
一方で各金融機関が、残価設定型住宅ローンの取り扱いを開始すると決まったわけではありません。住宅をお得に購入したいのであれば、低金利かつ住宅ローン控除制度も利用できる今、住宅を購入するのも選択肢の一つです。
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