2020年4月25日に神奈川県横浜市旭区で、物件案内中の女性営業マンが、男性客に胸や背中を刺されて重症を負う事件が発生しました。
男性客が犯行にいたった理由は、失業によってお金に困り金銭を奪おうとしたため。新型コロナの影響で失業する人が増えればこういった事件は今後も発生するかもしれません。
ところで、物件見学時に、お客様に同行する営業マンは本当に必要なのでしょうか?
実は、物件の見学を含む不動産の営業は、自社をIT化することで売上を落とすことなく対面営業から非対面営業に移行できます。
そこで今回は、不動産会社の営業を非対面にするメリットや、非対面営業を実現できるIT技術について解説します。
- 不動産会社がIT化で非対面営業に移行するメリット
- 非対面営業への移行に有効なIT技術
- お客様の視点から見た非対面営業のメリット
不動産業界の活性化・透明化を目指し、2018年仲介手数料定額制の不動産会社「イエツグ」を設立。お客様の「心底信頼し合えるパートナー」になることを目標に、良質なサービスと情報を提供している。
保有資格:宅地建物取引士・2級ファイナンシャルプランナー技能士・住宅ローンアドバイザー・既存住宅アドバイザー・防災士
目次
不動産会社がIT化で非対面営業に移行するメリット
不動産会社がIT技術を導入して非対面営業へ移行すると、以下3つのメリットを得られます。
- 従業員が物件の見学時に犯罪やトラブルに巻き込まれる心配がない
- 不動産会社のコストを削減できる
- お客様とスケジュールを合わせる必要や遅刻をする心配がない
不動産会社の営業を非対面で行うことで、物件を案内するときもお客様と顔を合わせずに済むため、横浜市旭区で起こった事件のように営業マンが襲われる心配がありません。
そのため、IT化によってなるべく人と合わずに営業できる体制を整えることは、従業員の身体や命を守る一つの手段といえます。さらに人と会わなくなることで、今回のコロナウイルスのような感染症も防ぐことも可能です。
また非対面営業にすると物件の見学希望者が現れても現地に行く必要がなくなり、交通費を節約できるだけでなく、業務時間の確保できます。
加えて、物件の見学時に営業マンの立ち会いが必要なくなると、営業マンとお客様のスケジュールを合わせる手間も省けて、さらなる業務の効率化が可能です。「お客様との待ち合わせに遅刻したらどうしよう」と営業マンが不安になることもありません。
不動産会社を非対面営業にできるIT技術とは?
不動産会社が非対面の営業に移行する場合、以下2つのIT技術の導入がおすすめです。
- スマートロック
- IT重説
スマートロックの導入
スマートロックとは、簡単にいうとスマートフォンやタブレットのような通信機器で物件の鍵を解錠できるようにする装置です。
取り扱い物件のドアにスマートロックを取り付けると、お客様は事前に個人情報と物件の見学日時を入力し、現地でスマートフォンなどをドアにかざすだけで、物件の鍵を開けられるようになります。
そのためスマートロックを取り付けた物件については、見学時に営業マンが鍵を持っていく必要はありません。
またスマートロックは、入退室履歴を記録することもできるため、物件見学に伴うさまざまな業務の効率化できます。
スマートロックの普及はまだまだこれからであるため、場合によっては初期費用が無料で導入できます。ランニングコストはかかりますが、それ以上の業務効率化や経費を削減できるはずです。
さらにスマートロックを導入している物件は、他の物件との差別化が可能です、そのためスマートロックの導入は、物件の売主様にとってもメリットがあるといえます。
IT重説の活用
IT重説とは、インターネットを利用して重要事項説明を行うことです。
IT重説を導入すると、お客様に店舗まで足を運んでもらうことなく、インターネット端末で書面を確認しながらビデオ通話を用いて、重要事項説明ができます。
お客様の中には、不動産の契約は対面で行う必要があると考えている人も少なくありません。しかし、携帯電話や保険などで店舗に行くことなく契約できる事例が増えているように、賃貸物件を取り扱う不動産会社のほとんどがIT重説に対応しています。
売買契約を取り扱う不動産会社に関しては、2020年時点で59社しかIT重説を導入していませんが、これから普及が進むことは間違いありません。
また物件の内見については、お客様に携帯電話を必ず現地に持っていってもらい、お客様から質問があれば営業マンがビデオ通話で回答すると良いでしょう。
お客様視点から見た非対面営業のメリット
不動産会社の営業を非対面にすることは、不動産会社だけでなくお客様にとっても良い面があります。
ここでは、非対面営業を導入した場合、お客様にとってどのようなメリットがあるのか確認していきましょう。
物件を気楽に見学できる
IT技術を活用して、物件の内見時に営業マンを同行しないようにすると、お客様は気楽に物件を見学できるようになります。
お客様の中には、不動産会社に対して「すぐに契約しないと煽ってこられるのではないか」「営業をすごくかけられるんじゃないか」というイメージを持っている方もいます。
そのようなお客様に対しては、物件の見学時に営業マンが同行するよりも、お客様だけで物件を見学できた方がありがたいはず。
私自身も一消費者の視点から考えると、不動産営業マンに色々言われることなく、自分たちの好きなときに好きなだけ物件を見学できる方が良いのではないかと思います。
不動産会社に行かずに契約できる
IT重説を導入し非対面で契約できる仕組みを作ると、お客様は不動産会社に足を運ぶことなく契約できます。
そのため「その条件なら契約するのをやめようかな」と、途中で考えを改めるお客様は珍しくありません。
しかし不動産会社で説明を受けていると、お客様は「ここで断ったら営業マンが困るかも」や「見学にも同行してもらったのに断ったら迷惑かな」と考えてしまいます。
ですが、お客様がご自身の意図しない契約を結んでしまい、疑問を感じながらその物件に住み続けることは、お客様にとって正しい選択といえるのでしょうか?
IT重説を導入すると、お客様はご自身がリラックスできる環境で契約を結べます。さらに営業マンとお客様はビデオカメラ越しに会話するため、対面よりもお客様が契約を断りやすくなり、意に沿わない物件を契約してしまうリスクを回避できるのです。
不動産業界のIT化が進まない理由
不動産会社とお客様の両方にメリットのあるIT化ですが、普及は遅れている状況です。その理由は、不動産会社の多くが歩合制であるからと考えられます。
不動産会社の営業マンの多くは、契約数に応じて給与が変わる歩合制の会社で働いています。歩合制の不動産会社には、固定給があるとはいえ、売上がなかった月の収入は10〜15万円程度。これではとても生活できません。
また固定給のない完全歩合制の会社で働く営業マンの収入は、多くの契約を取れれば高くなりますが、全く売上がない月は0円です。
このように不動産会社の営業マンは、契約によって収入が大きく変わるため、契約を取ろうと必死に営業します。
しかしIT技術を導入すると、心理的な面で消費者側が有利になって契約が取りにくくなる、と考える人が不動産業界には多いことから、IT化が遅れてしまっているのだと思います。
まとめ:不動産会社は積極的にITを導入しよう
IT技術を駆使して非対面営業にすることで、従業員は物件の見学時に従業員の同行が必要なくなり、従業員を犯罪やトラブル・感染症などさまざまなリスクから守れます。
また非対面の営業では、交通費のような経費を削減できるだけでなく、お客様とスケジュールを合わせる手間も省いて業務の効率化が可能です。
お客様の視点で考えた場合でも非対面営業は、物件をお客様だけで気楽に見学できるようになったり、契約時の負担を軽減できたりといったメリットがあります。
IT技術の導入には、設備の導入に費用や手間、時間などが必要です。しかし、IT技術を導入すると助成金を受け取れる場合もあるため、積極的に営業体制を見直してみてはいかがでしょうか。
大手保険会社で培った知識と経験から、保険、不動産、税金、住宅ローンなど幅広いジャンルの記事を執筆・監修。