2020年9月現在、政府による金融緩和政策と金融機関同士の金利引下げ競争により、住宅ローン金利は下がり続けています。とくに変動金利型と固定期間選択型の適用金利は、ほぼすべての金融機関が1%を大きく下回っている状況です。
住宅ローン金利が1%以下の状況では、住宅ローンの利息負担よりも、住宅ローン控除(住宅ローン減税)による節税額の方が高くなる可能性があります。
では、具体的にどのような条件で借り入れると、得するのでしょうか?本記事では、シミュレーションを用いてわかりやすく解説します。
- 住宅ローン控除額が利息負担よりも上回るケース
- 繰り上げ返済をした場合に利息負担がどれだけ減るか
- 金利1%以下でも住宅ローン控除額が利息負担を下回るケース
不動産業界の活性化・透明化を目指し、2018年仲介手数料定額制の不動産会社「イエツグ」を設立。お客様の「心底信頼し合えるパートナー」になることを目標に、良質なサービスと情報を提供している。
保有資格:宅地建物取引士・2級ファイナンシャルプランナー技能士・住宅ローンアドバイザー・既存住宅アドバイザー・防災士
目次
低金利で利息負担より住宅ローン控除額の方が多くなるケースがある
住宅ローン控除とは、年末時点の借入残高の1%を所得税や住民税から控除してくれる制度。控除限度額は、最大で年間40万円(長期優良住宅の購入時は年間50万円)です。
控除期間は最大で10年ですが、所定の条件を満たすと13年に延長される特例措置が適用されます。特例措置が適用された場合、返済11〜13年目の控除額は、「年末時点における借入残高の1%」と「建物の取得価格の2%÷3」のどちらか低い金額となります。
もし控除額が、所得税の金額を上回っていた場合、余りは住民税から差し引かれる仕組みです。
たとえば、住宅ローン控除額が30万円、所得税額が20万円、住民税額が23万円だったとしましょう。住宅ローン控除を受けると所得税の20万円が還付されて、残りの10万円が住民税から差し引かれて税負担は13万円となります。
ただし住民税から差し引かれる控除額は、「前年分の所得税の課税総所得金額等の7%」もしくは「136,500円」のどちらか多い金額が上限です。
住宅ローンを借り入れた場合、借り入れ元金に利息を足した金額を毎月返済していかなければなりません。利息は、前回返済後の借入残高に金利をかけて計算します。そのため低金利の現在では、借入条件によっては控除額よりも利息負担の方が低くなる場合があるのです。
金利が1%以下の住宅ローン控除額と利息負担をシミュレーション
では、どのような場合に住宅ローン控除額が利息負担よりも高くなるのでしょうか?
ここから実際にシミュレーションをして、確認してみましょう。借入条件は、以下の通りです。
- 借入額:4,000万円(土地:2,000万円・建物:2,000万円)
- 返済期間:35年
- 返済方式:元利均等方式(毎月の返済額が一定である返済方式)
- 金利:0.525%(変動金利)
- 返済開始月:1月
次に、35年間にわたって住宅ローンを返済場合の控除額と利息負担を比較してみましょう。返済期間中の住宅ローン金利は変わらず、控除期間は13年とします。
金額 | |
毎月の返済額 | 104,277円 |
返済総額 | 43,796,208円 |
うち利息負担総額 | 3,796,208円 |
住宅ローン控除額 | 控除期間10年:3,416,734円 控除期間13年:3,816,734円 |
シミュレーションの結果、控除期間13年である場合、住宅ローン控除額の方が20,525円多い結果となりました。しかし控除期間が10年であった場合、利息負担の方が379,475円高くなってしまいます。
よって住宅ローンを35年にわたって返済する場合、控除期間が13年であり低金利の状態が返済期間中ずっと続かなければ、お得な状態となりません。
住宅ローンを10年後に繰り上げ返済した場合をシミュレーション
では、同じ借り入れ条件で繰り上げ返済をすると、利息負担と控除額はどのようになるのでしょうか?
先程の借入条件において返済11年目(10年1ヶ月目)で、1,000万円を繰り上げ返済し、毎月の返済負額を軽減した場合の控除額を確認してみましょう。
金額 | |
毎月の返済額 | 1〜10年目:104,277円 11〜35年目:68,589円 |
返済総額 | 43,125,706円 |
うち利息負担総額 | 3,125,706円 |
住宅ローン控除額 | 控除期間10年:3,416,734円 控除期間13年:3,816,734円 |
このように返済11年目に1,000万円を繰り上げ返済すると、控除期間が10年であっても、控除額の方が利息負担よりも291,028円上回る結果となりました。もし控除期間が13年となった場合、差額は691,028円となります。
また、もし返済10年が終了した時点で、借入残高である29,311,004円を一括返済できる場合、利息負担は1,824,206円で済むため、控除額の方が1,592,527円高くなります。
以上の点から、住宅ローン控除額を利息負担よりも多くしたい場合は、低金利で借り入れるだけでなく、繰り上げ返済を積極的に活用するとよいでしょう。
住宅ローンを繰り上げ返済するタイミングには注意が必要
住宅ローン控除が適用される期間中の繰り上げ返済は、できるだけ1月にしましょう。理由は、住宅ローン控除の控除額が年末時点の借入残高をもとに計算されるためです。
11月や12月に繰り上げ返済をして借入残高を減らしてしまうと、控除額も減ってしまいます。そのため控除額が利息負担を上回る状態にしたいのであれば、繰り上げ返済する金額だけでなく、タイミングにも注意しましょう。
金利1%以下でも住宅ローン控除額が利息負担を下回るケースがある
いくら低金利で借り入れて、繰り上げ返済を活用したとしても、必ず得するとは限りません。
ここでは、住宅ローン控除額が利息負担を上回るケースをご紹介します。
高額な住宅を購入した場合
住宅ローンの利息負担は、借入額に伴って高額になっていきます。しかし住宅ローン控除額は、借入額が増えると年間40万円(長期優良住宅は50万円)の上限が適用されやすくなるため、利息負担ほど増加しません。
そのため借入額が高くなるにしたがって、控除額が上限に達する年が増えて、期間が13年に延長されたとしても控除総額が利息負担を下回りやすくなるのです。
消費税が課税されない中古物件を購入した場合
消費税が非課税となる物件を購入した場合、控除額の上限は年間20万円(10年間で200万円)に減額されます。そのため非課税住宅を購入する場合、控除総額だけでなく年間の控除額が利息負担を下回る可能性が生じるのです。
課税物件とは、新築物件や不動産業者が販売する中古物件などの消費税が課税される物件
対して非課税物件は、一般の消費者から購入した物件のような消費税がかからない物件
たとえば、金利0.5%(変動)、返済期間35年(元利均等方式)の住宅ローンを借り入れて、非課税物件を購入するとしましょう。計算すると、借入額が4,050万円を超えた場合、初年度の利息負担が20万円を上回って年間の控除額よりも高くなります。
所得税額と住民税額が少ない
住宅ローン控除は、所得税と住民税の金額によっては、十分な節税効果を得られない場合があります。
仮に住宅ローン控除額が30万円、所得税額が10万円、住民税額が13万円の場合、差額の7万円は消滅します。他の税金から差し引かれることも、翌年に控除額が繰り越されることもありません。
年収が低いほど、所得税や住民税の金額が低くなり、住宅ローン控除の節税効果を受けづらくなります。低金利と住宅ローン控除の両方の恩恵を受けられるからといって、身の丈に合わない借り入れをした住宅購入は控えましょう。
金利が上昇し利息負担が増えた場合
変動金利で住宅ローンを借り入れた場合、将来的に金利が上昇すると利息負担が増えて住宅ローン控除額を上回る可能性が高まります。
たとえば、3,000万円(建物価格2,000万円)を変動金利0.5%、返済期間35年(元利均等方式)で借り入れたとしましょう。
金利変動がまったくなかった場合、利息負担は合計で2,707,757円です。しかし金利が10年ごとに1.0%ずつ上昇した場合、利息負担は7,016,680円まで膨れ上がります。
一方で住宅ローン控除額は、控除期間が10年の場合2,560,963円、13年の場合は2,960,963円です。そのため金利上昇が起きた場合、利息負担の方が高くなります。
利息負担を住宅ローン控除額の範囲内で収めたいのであれば、繰り上げ返済も視野に入れて返済計画を立てましょう。
諸費用が高額になる場合
住宅ローンを借り入れるときは、金融機関に支払う事務手数料や保証料、損害保険料などの諸費用を支払う必要があります。
また住宅ローンを繰り上げ返済する場合は、金融機関によっては繰り上げ返済手数料が必要です。そのため返済シミュレーション上では、住宅ローン控除額が利息負担を上回っていても、諸費用が高額だとマイナスになることもあります。
住宅ローンの諸費用の種類や金額については、以下の記事にまとめてありますので併せてご確認ください。
さらに住宅を購入する際は、不動産会社に支払う仲介手数料や売買契約書に添付する収入印紙代などが別途かかります。よりお得に住宅を購入したいのであれば、利息負担だけでなく購入時の諸費用をできるだけ抑えることが大切です。
まとめ:金利1%以下でも「住宅ローン控除額>利息負担」になるとは限らない
金利1%以下の住宅ローンを借り入れても、年収や金利上昇、諸費用の金額次第では、お得にならない場合があります。よりお得に住宅を購入したいのであれば、年収に見合った金額を借り入れたうえで、繰り上げ返済の活用や諸費用負担を抑えるなどの対策が必要です。
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