不動産の契約時には必須の「重要事項説明」は、対面の宅建士から長時間説明を聞き続けなければならないため、新型コロナウイルス感染のリスクが危惧されています。
2017年10月より本格運用が始まった「IT重説」は、非対面で行う重要事項説明。地域や距離を問わず非対面で説明を聞けることから、契約者の負担を大きく軽減できると期待されています。
本記事では、IT重説の内容や手続きの手順、メリット・デメリットなど、IT重説の全容についてプロの視点から解説します。
- IT重説とは何?
- IT重説の利用方法
- IT重説のメリット
- IT重説のデメリット
新型コロナウイルスが流行する中で注目を集めているIT重説。
どんな特徴があるのか一気に解説するよ!
不動産業界の活性化・透明化を目指し、2018年仲介手数料定額制の不動産会社「イエツグ」を設立。お客様の「心底信頼し合えるパートナー」になることを目標に、良質なサービスと情報を提供している。
保有資格:宅地建物取引士・2級ファイナンシャルプランナー技能士・住宅ローンアドバイザー・既存住宅アドバイザー・防災士
目次
IT重説とはテレビ通話を使った重要事項説明!賃貸契約では実施中・売買では社会実験中
IT重説は「IT(information technology)」と「重説(重要事項説明)」を組み合わせた造語です。
従来は不動産会社の宅建士と対面で行わなければならなかった重要事項説明を、インターネットを通じて行えるようになりました。
インターネットを通じて遠隔地でも重要事項説明ができる
IT重説はインターネットのテレビ通話を通じ、宅建士と契約者が画面越しで行う重要事項説明を指しています。
重要事項説明は、一般的には宅建士と契約者が顔を合わせて実施します。そのため地方在住者が都内の物件を購入するような場合、契約者が重要事項説明のために上京するという手間が必要です。
IT重説はインターネットを通じた通話で重要事項説明を行います。遠隔地間でも重要事項説明の手続きを行えることから、新型コロナウイルス感染防止にも有効と注目されています。
売買におけるIT重説は社会実験中
IT重説は国土交通省主導の社会実験段階を経て、2017年10月より賃貸契約に関する重要事項説明に関してのみ、本格的な運用が開始。全不動産会社が賃貸契約に関するIT重説実施を認められています。
一方で売買契約における重要事項説明は社会実験を継続。国土交通省が認可した社会実験参加事業企業のみが売買契約時のIT重説を行えます。
売買契約の社会実験参加企業は694社
売買契約におけるIT重説の社会実験は、2015年8月より開始した法人売買取引を経て、2019年10月から個人間売買へ範囲が拡大されました。
そのタイミングでの社会実験参加企業は59社に限定されていましたが、2020年5月に事業者を追加募集。現在は694社にまで拡大しています。
この拡大の理由のひとつには、IT重説重説の取引サンプル収集の強化があるとみられています。
賃貸契約におけるIT重説の社会実験では、1,071件の重要事項説明においてクレーム・トラブルは1件も発生しませんでした。
しかし売買契約の重要事項説明は、賃貸契約に比べ2~3倍の時間を要するのが一般的であることから、さらに慎重にサンプルを収集する必要があると考えられています。
どこでも重要事項説明を受けられるIT重説は、どんな条件で利用できるんだろう?
IT重説対応物件の探し方
賃貸契約では一般的になっているIT重説ですが、売買契約におけるIT重説は現在も社会実験が続いています。
IT重説を利用した不動産売買は、いくつかの条件を満たすことで利用が可能です。
実験事業者を探す
売買におけるIT重説は、IT重説の社会実験に参加している事業者のみに認められており、すべての不動産会社が行えるわけではありません。
国土交通省のホームページでは、実験事業者として登録されている不動産会社を公開しています。
2019年8月に59社が登録。2020年5月にはさらに635社が追加されていますので、公開されているリストから事業者を探しましょう。
対応物件を探す
IT重説は、IT重説の実施に売主が同意した物件のみ利用できます。
IT重説が利用できる物件の広告には以下のアイコンが表示されています。また物件によっては「ITを利用した重要事項説明対応物件」という文言が記載されるので、アイコンと文言を目印に対応物件を探しましょう。
画像引用:国土交通省「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験の広告に関するガイドライン」
アイコン表示なしでも対応可能物件あり
IT重説利用可能物件にはアイコンが表示されますが、このアイコンには表示義務がありません。
IT重説に売主が同意している物件でも、必ず表示しているとは限りません。興味のある物件にアイコンが表示していなくても、実験事業者に確認してみるとよいでしょう。
無事に買いたい物件が見つかったら、
次はいよいよIT重説を利用してみよう!
IT重説のやり方とは?国土交通省のガイドラインに沿って解説!
実際にIT重説を行う際には、一定の準備や手続きが必要です。一般的には次の流れで準備・手続きが進められます。
ここからは国土交通省が発表しているガイドラインにそって、IT重説のやり方を解説します。
必要な機材・通信環境を揃える
IT重説にはインターネット環境と、テレビ通話を行うための機材が必要です。これらの準備は契約者が自分で行う必要があります。
機材はカメラ付きのパソコン、もしくはスマートフォンを用意しましょう。あまり古いパソコンやスマートフォンでは性能が足りない、通話用のアプリが対応していないといった理由でIT重説を行えない場合があります。
またIT重説は2~3時間連続してテレビ通話を行うため、速度が速く安定した通信環境も必要です。
一定以上の性能の機材、安定した通信環境の用意が難しいようなら、ネットカフェの防音個室の利用も検討するとよいでしょう。
通話用のアプリを用意する
IT重説は、パソコンもしくはスマートフォンの通話アプリを利用して行います。
多くの場合、使用するアプリは不動産会社から指定されますが、契約者が希望するアプリに対応してくれる場合もありますので、事前に相談しておくとよいでしょう。
多くの場合、以下のようなアプリが利用されます。
- Zoom
- LINE
- Skype
- GoogleMeet
もし指定されたアプリの使い方がわからないようなら、事前に調べておくか、不動産会社に教えてもらいましょう。
書類の確認
IT重説は契約者の手元に重要事項説明書および契約書の原本が必要です。これらの書類は事前に不動産会社から送付されます。
重要事項説明は専門用語が多く使われます。そのため不動産関連の契約になれていない人は、一度説明を聞いただけでは理解しきれないことも少なくありません。
書類を受け取った後は、当日までに一度目を通しておくようオススメします。そして不明点は事前に確認しておくか、当日質問できるように準備しておくのが望ましいでしょう。
説明を受ける
IT重説の時間になったら、指定のアプリを開いて説明を受けます。重要事項説明は順調に進んでも2~3時間程度かかりますので、時間にゆとりのある日程を選んでおきましょう。
IT重説はインターネットのテレビ通話を利用するため、以下の条件を満たせない場合には重要事項説明を行ったとは見なされません。
- 通信状態が良好であり、宅建士および契約者がお互いに顔・声を認識できる
- 宅地建物取引士証の提示があり、証明書の文字を契約者側から読み取れる
開始直後は順調に進んでいても、途中で通信状態が悪化する場合もあります。IT重説の途中で条件を満たせなくなった場合には、遠慮なく宅建士に説明が聞こえなかったことを伝え、説明のし直しを要求しましょう。
書類を返送する
重要事項説明を無事に終えたなら、契約者は重要事項説明書および契約書へ署名押印し、書類を不動産会社へ返送します。
返送された書類に不動産会社側が署名押印し、契約者に控えの書類が到着すれば書類上の手続きは完了です。
前準備にはちょっと手間がかかるけど、
IT重説ができるといろいろなメリットがあるよ!
IT重説のメリットは売買契約時に直接対面しなくていいこと
宅建士と直接対面しなくてもよいIT重説は、従来の重要事項説明の手続きにはないメリットを多く持っています。とくに現在の新型コロナウイルスの影響が大きい環境においては、そのメリットが重視されています。
メリット1.長時間、直接対面しなくて良い
項説明は宅地建物取引業法により定められた、不動産取引時に必須の手続きです。賃貸では1時間前後、売買では2~3時間もの間、直接対面する宅建士から不動産に関する説明を受ける必要があります。
重要事項説明の会場は不動産会社で行われる場合が多く、会社によっては狭く密閉された空間で行われることも。そのため新型コルナウイルス感染防止の観点から、あまり歓迎できる環境ではないと考えられます。
IT重説はインターネットを通じたテレビ電話で行えるため、宅建士と直接対面する必要がありません。狭く密閉された空間での同席がいらない点は、コロナ禍中においては歓迎できるでしょう。
メリット2.地域を問わない
IT重説はテレビ通話を行うための環境を整えられれば、全国どこでも重要事項説明を受けられます。
仮に関西在住の契約希望者が都内の物件を購入する場合でも、重要事項説明のために東京まで出てくる必要がなくなります。
どの地域の物件を購入する場合でもインターネット上で説明が完結しますので、契約のための手間は大きく削減されるでしょう。
メリット3.長距離の移動が不要
従来の重要事項説明は、仲介する不動産会社で行われるのが一般的です。そのため購入者の住所と不動産会社の所在地が離れている場合、長距離の移動が必要とされていました。
IT重説なら長距離移動をせずとも、現住所の近くで重要事項説明を受けることが可能。ケガや高齢などにより不動産会社の訪問が難しい場合でも、契約者本人が説明を受けられるのは大きなメリットです。
また、電車移動に伴う新型コロナウイルス感染リスクを避けられる点も、現代においては重視したいポイントでしょう。
いいところいっぱいのIT重説!
でも少しだけ注意しないといけないポイントもあるんだ。
IT重説のデメリットは適切な準備・実施が必要なこと
現代においては大きなメリットをもつIT重説ですが、一方でいくつかのデメリットも抱えています。
デメリット1.高品質の機材・通信環境が必要
IT重説は約2~3時間、インターネットを通じた重要事項説明を聞き続けられる環境が必要です。ある程度品質が高いパソコンやスマホなどの機材、安定した通信環境を整えなければなりません。
普段使っている機器や回線がIT重説に適していないようなら、前もって機器やWi-Fiをレンタルするなどの準備をしておきましょう。
デメリット2.周囲が無人の環境が必要
IT重説は、テレビ通話で宅建士と会話をする必要があります。宅建士からの会話はヘッドホンなどで周囲に聞こえないように対策できますが、自分が話す声は防げないため、周囲環境に気を配らなければなりません。
説明を受ける時間に自宅を使えないようなら、カラオケルームやネットカフェの防音ルーム、レンタルスペースなど周囲に人がおらず、会話内容が誰にも聞かれない場所を借りるとよいでしょう。
デメリット3.契約は書面が必要
IT重説の説明はインターネット上で受けられますが、手続きを完了させるためには契約書・重要事項説明書の書面に署名押印が必須です。
対面で重要事項説明を受けるなら、説明を受けた当日に署名押印を含む契約の手続きを済ませられます。しかしIT重説では、書類に契約者と不動産会社がそれぞれ署名押印しなければなりません。そのため対面よりも手続きに時間が必要です。
デメリット4.契約手続きにタイムラグが生まれる
対面で手続きを行う場合には、書類に署名押印したその場で契約者が手付金を支払います。
IT重説では契約者の署名押印から不動産会社が確認するまで、書類を移動させるだけ時間がかかります。手付金の支払いは不動産会社の確認後になるため、従来の対面手続きにはなかった待ち時間が生まれるようになりました。
手付金は解約時の損害賠償や違約金になるお金です。IT重説では契約者が自分から支払い手続きを行わなければならないため、支払遅延といったトラブルにつながるリスクが生まれやすいといえるでしょう。
まとめ:IT重説を活用した不動産売買はイエツグまで
IT重説は対面での手続きが不要であることから、コロナ禍中の不動産取引方法として注目されています。今年5月に実験登録事業者が大幅に増加したことからも、本格運用に向けた動きが活発になることが予想されます。
弊社は社会実験開始に登録した事業者59社のひとつです。IT重説での不動産売買へ積極的に取り組んでおり、メリット・デメリットともに十分に把握した上で、お客様のご要望にお応えできるよう努めております。
IT重説は、今後新しい不動産取引のスタンダードとなることが予想されています。全面開放に先駆けたIT重説に興味がございましたら、ぜひ弊社イエツグまでご相談ください。